家を賃貸で貸すのと売ってしまうのはどちらが良いのか?
大きな資産価値を持つ不動産は利用の仕方によって形を変えた利益を所有者に還元してくれます。
単純に売って現金化する場合は一度に大きな現金を手にすることができますが、売ってしまうとその不動産からはもう利益を得ることができません。
この方法で利益を出し続けるには新たな不動産を買って転売を続けることになります。
しかし不動産を手放さずに所有権を保持したまま、賃貸物件として利用すればそこから家賃収入が入ってきます。
一度に得られる利益は小口ですが、所有権を手放さない限り将来に渡って収入を得ることが可能です。
不動産を売ってしまい換金して得られる利益をキャピタルゲイン、賃貸物件として利用し家賃収入などとして得る利益をインカムゲインと言いますが、不動産からの収入確保の仕方が違う両者にはどちらもメリットやデメリットがあります。
今回はこれらを確認して、どちらのタイプがあなたにとって良い方法なのか考えてみましょう。
家を売却することのメリット
まず大きなメリットとしては大口の現金を一度に手にすることができる点が挙げられます。
生活費や遊興費に使うことができるのはもちろんですが、事業資金や金銭債務の弁済、税金の納税資金や財産分与の資金源といった割と大きな利用用途に用いることができます。
土地付きの家であれば古屋であっても土地の価値が確保されているので数千万円レベルの現金を手にすることができますから、様々な用途に利用することが可能になり、生活や事業の計画を立てやすくなります。
生活資金としては衣食住だけでなく、例えば子供の教育費などに充てることもできますし、近年何かと話題になっている年金不安に対する対策として個人年金保険などの保険料に充てるなど、形を変えて新しい価値や利益を得るための計画が立てやすくなります。
事業資金方面としては運転資金にそのまま利用することもできますし、すでに融資などの為に抵当に入っている場合にはこれを完済してしまって、残りを運転資金に充当するなどもできます。
また金銭債務の弁済や納税方面では、弁済や納税の為の期限がありますから、これを逸すると遅延損害金や延滞税などのペナルティが課せられることになります。
回避するためには期限までにきっちりと資金を確保しておかなければならず、売却して確実に現金を用意しておかなければなりません。
一括で大きな資金を用意できることで家の住宅ローンの完済も可能になります。
ローンに縛られた人生から抜け出し自由な生活を取り戻すこともできるでしょう。
残った資金は新しい新居の購入資金に活用することもできます。
人は家族を作り、子どもが生まれ、親と同居したり逆に別居したり、伴侶を失ったりと家族構成が変化することがあります。
家族が増え広い家が必要になった、逆に広すぎるので手ごろな広さの家に住み替えたいという事情が発生するのは必然です。
売却すれば必要のない家を売って必要な家を買うための資金を確保できます。
またその際には税法上の支援を受けることもできます。
基本的には家を売った際の譲渡益は不動産譲渡所得税の課税対象になりますが、一定条件を満たせば、特別控除や特例を利用して税負担を軽減したり無くしたりすることも可能です。
税金面では他に不動産を保有しているだけでかかってしまう固定資産税や都市計画税とおさらばすることもできます。
これらの税金は法律上の所有権を有する者に課税されるので、売ってしまえばこれらの税金は課税されなくなります。
家を売却することのデメリット
逆に売却してしまうことのデメリットもいくつか考えられます。
金銭面ではまず不動産業者に支払う仲介手数料の負担があります。
業者を使わずに自分だけで家を売ることも不可能ではありませんが、実務やリスクを考えると実際問題素人では費用対効果が悪すぎ、法的な問題も抱えてしまうため不可能に近いと言って良いでしょう。
面倒で手間のかかる実務をこなしてくれる不動産業者にはそれなりの手数料の支払いが必要で、物件にもよりますが数百万円レベルの手数料が発生することもあります。
また不動産の売却で得た正味の利益(売却益)は不動産譲渡所得税の課税対象になりますので、経費の控除など必要な計算をして儲けが出ていれば納税が必要になります。
ただし上にも書きましたが一定の条件を満たす場合は大きな減税措置を受けることができるので、税負担を大きく減らしたり、無くすことも十分可能ですのでFPや税理士などに相談してみることをお勧めします。
手続き面では売却することで新居探しが必要になるということと、ここに引越しの手続きも関係してきます。
家を買って新しい家に引っ越すという、一見単純なことのようにも見えますが、実際は住み替えの難しさが内包されているのです。
新居を先に買ってしまってから旧住居を売る買い先行で行く場合には良いのですが、買い先行は購入資金源の確保が困難ですし、旧住居を売却して資金を確保してから新居探しをするとなると売却後すぐは住むところがありません。
アパートなど仮住まいで負担を強いられることになります。
また条件の良い新居は早い者勝ちでどんどんライバルに取られてしまうため住み替え計画を思い通りに進行させることは難しくなります。
そして引っ越し前に内見対応をしなければならないことから家族のプライベートを見られてしまうという気恥ずかしさがあります。
どうしても見られたくない箇所は人を入れないこともできますが、内見希望者から見れば購入対象の物件の不確実性が増すために購入意欲を削がれることは必至です。
心理的なデメリットとして、長く住んだ家や実家などの場合は親しんだ家が他人の手に渡ってしまうのですから少なからず喪失感というものもあるでしょう。
「改装を加えられて思い出を刻んだあの柱が取り払われてしまうのか」、などと考えるとさみしくなるのは仕方のないことと言えます。
一旦売ってしまったら買い戻すことも事実上不可能ですから、思い出の「永遠の喪失」という心理的負担を負うことになるかもしれません。
家を賃貸することのメリット
家を売らずに賃貸に出す場合は所有権を失うことがないので、将来的にどのような形にでも利用可能なことになり、自分の意思でどうにでも処分や利用ができる可能性を将来に残せるのが一つのメリットです。
一定期間は賃貸物件として活用し、その後はまた自分で住んだり、子どもに譲って住まわせることもできます。
将来の相続のことを考えて相続対策として利活用しても良いでしょう。
利用法について選択の余地を残しておくことで柔軟な人生設計も可能になります。
また賃貸するわけですから金銭的にも利益が発生します。
売却のように大口の現金はすぐには手に入りませんが、家賃収入という形で定期的な収入を得ることができます。
サラリーマンの方であれば給料に加えて、年金暮らしの方であれば年金収入にプラスして生活資金を増やすことができ、生活の質を上げたり余剰資金として旅行を計画したりと、潤いのある人生の助けになってくれるかもしれませんね。
税金面では経費枠の利用項目が増えるので利益を圧縮して税金の負担を軽減することもできます。
通常、自分で住むための家の場合は経費という概念がないので、固定資産税やマンションの管理費や修繕積立金、あるいは住宅ローンの金利などは支払損でしたが、賃貸に出すということは賃貸ビジネスを行うということですので、そのための必要経費と考えることができるようになります。
また完全に手放すわけではないので、心理的な喪失感も少ないというメリットもあるでしょう。
改装や改築を制限すれば思い出を刻んだ柱なども残すことができます。
家を賃貸することのデメリット
賃貸する方法が魅力的に映る方もいるかと思いますが、多くの困難を抱えることも知っておかなければなりません。
賃貸するということは大家さんとなるわけですから、賃借人との付き合いが生じることになります。
賃借人が実際どんな人物なのかはなかなか契約交渉の場面だけでは分かりませんので、問題のある人物が賃借人になることも考えられます。
騒音を出して近隣に迷惑をかけるような場合はオーナーも責任の一端を被ることになります。
またオーナーとして賃借人に気持ちよく家を使ってもらうためのメンテナンスや管理の責任も生じます。
付き合いやメンテナンスは管理会社を入れればある程度負担を軽減できますが、費用がかかってしまいますし、最終的な法的責任はやはり所有者たるオーナーに帰属します。
この点、日頃から管理などの為に様子を見に行ける距離にいない場合はさらに難しくなるでしょう。
借り手が見つかればまだ良いのですが、世の大家さんの多くを苦しめているのが空室リスクです。
借り手がすぐに見つかるか、見つかった人が転勤などで退去してもすぐに代わりの借り手が見つかるか、という問題と常に付き合っていかなければなりません。
ここら辺はマンションか一軒家かによっても違いますし、立地条件も当然関係してきますから一概には言えませんが、東京など都心を除いてはマンションの空室が目立つところも多いのが実情です。
借り手が付かない間、住人がいない家というのは腐敗のスピードが恐ろしく早くなるので、単に家を有効利用できないというだけではなく、資産価値の急激な減少というデメリットが発生することになります。
空室が長く続き腐敗が進むと、いざ売却しようという時にも買い手が付かないということも考えられます。
賃貸ビジネスとして上手く回転するかは賃貸専門の不動産業者とよく相談してシミュレーションを行う必要があるでしょう。
最後に賃貸することの最大のデメリットですが、事故物件となってしまうことの可能性があるということです。
借主が騒音などの面倒を起こすだけであればまだ良いのですが、例えば自殺してしまった場合や事件事故に巻き込まれて死人が出た、あるいは孤独死して死者の体液が階下に漏れてしまったという事例は山ほどあります。
このようなことが起きると二つの困難が待ち受けることになります。
まず、当面の原状回復として多くの費用と時間がかかることです。
事件であれ事故であれ自殺であれ、死人が出るような事態が起きた場所です。
血液や体液などが飛び散り、腐敗した遺体が虫に食われ腐臭を発していたなどは良く聞かれるケースです。
こうなると事件事故に専門にあたる特殊清掃の業社を入れて徹底的に清掃した後で、建築材の入れ替えを行ったり補修をしたりしなければならなくなります。
さらには事故物件となってしまった場合、その不動産の価値が激減してしまうということも忘れてはいけません。
誰もが嫌がる物件として見られるので新たな借り手も付きにくくなり、噂が広がるため売ろうとしても売れなくなります。
事故物件リスクはオーナーの人生を左右してしまうほどの大事であり、賃貸ビジネスでは常に付きまとう問題です。
オーナーとしてこのような現場に臨場しなければならないこともあり、なかなかのリスクと言えます。
売却と賃貸のどちらが良いのか?
以上、売却することと賃貸することのメリットやデメリットを見てきましたが、あなたにとってどちらが良いかというのは一概に言えないものの、結論としては賃貸することについて十分な勝算が得られない場合は売却する方が手間も面倒もなくお勧めです。
賃貸方面で勝算が見込めるのは、あなた自身に大家業としての特性があるかどうかと、立地や条件などを見て十分な利益を生める物件なのかということにかかっています。
お伝えしたように家を賃貸することは面倒が多い上にリスクも大きく、こうした手間やリスクを気にしない方でなければ務まりません。
またあなたに特性があったとしても、その物件が古い一軒屋で借り手を探すのが難しかったり、立地条件として借り手候補になる人の流入が少ないエリアだったりすると十分な利益を生めないだけでなく、空室が長く続くことによる不動産資産としての価値の激減が起きてしまいます。
以上のことを考えると、大家業のノウハウを勉強する機会が少ない我が国においては多くの方が賃貸ビジネスで成功することは期待できないと思われるので、よっぽどの勝算が無い限りは売却してしまうのが経済的にも安全面でも有利なのではないでしょうか。
場合によっては相談した不動産業者から売却以外の利用法もアドバイスを受けることができるかもしれませんので、多くの業者と接触して話を聞いてみましょう。
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