不動産は非常に大きな価値を持つ資産ですから、いざという時は現金化して色々な用途に利用することができます。
不動産それ自体の入手経路やいきさつなどは個々人で全く異なると思いますが、どのようにして入手した物件なのかということは売却後の資金の利用用途にも影響してきます。
また売却という行動を起こさせる理由は年齢によっても特徴がでそうです。
投機的に不動産を売り買いしているような場合は次の物件購入費用などに充てる目的も出てきそうですが、今回はそのような事業性のあるものではなく、一般の不動産保有者の方が物件売却後にどのような用途に売却代金を使うのか考えてみたいと思います。
利用用途によっては売却活動の際に注意しなければならないこともあるのでこの点についても考察していきたいと思います。
一般の方がどのように資金を利用するかということはまとまった指標がないと考察できませんので、今回は不動産サイトを運営する株式会社シースタイルさんが行った調査を参考にさせていただきたいと思います。
この調査は2020年に行ったもので、全国の30代から60代の方がサンプルとなっています。
最も多い利用用途は住み替えの資金源
不動産売却後の資金の利用用途で最も多かったのは住み替えの資金源(57.4%)ということになったようです。
次いで多い順に預貯金(23.7%)、住宅ローンの返済(20.2%)、使い道が決まっていない(8.7%)、生活費(7.1%)、税金の支払い(6.1%)、教育費とその他が同順位(1.8%)となっています。
住み替えというともしかしたら贅沢な行動と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、実は経済的に負担が少ないようにする工夫をすることで割と短期間で住み替えを行う人も結構います。
税金の控除施策などを上手く活用することで売却利益が数字上でないようにし、負担を圧縮することで手元に残る資金を増やすことができるのです。
ところでこの調査では回答したサンプルの方の年齢層の中で「売却経験がある」方の中では60代以上が53.9%と最も多く、次いで50代の方が30.1%となっており、「売却行動・意思がある」方の中では50代の方が35.1%、次いで60代以上の方が28.7%と多くなっています。
この年代の方は家族構成の変化によって住み替えを検討する方が多くなるので頷ける結果と言えます。
子供世帯と一緒に大所帯で暮らすことは昔と比べると少なくなり、子どもが家を出て夫婦二人になると広い家は何かと不便ですから、管理の負担だけが大きくなるので手狭な物件に住み替える方が増えています。
あるいは逆に子供世帯と二世帯住宅にするために住み替えするという方もいらっしゃるでしょうね。
どちらにしても家族構成の変化は住み替えを検討する大きな要因になります。
また高齢になるまで長く保有した家は老築化が進むため、リフォームなどして使い続けるよりも新しい家に住み替えたいという要望も出てくるでしょう。
また50代、60代となると自身の親も高齢化し、いつ相続が起きてもおかしくない世代になります。
住み替えの資金源の次に多い預貯金ですが、相続で承継した物件というのは意外と利用しにくく、「取りあえずは預貯金に」と考える方が多いのかもしれません。
というのも30代以降の方は仕事や家庭の関係ですでに独立しており、新居を構えたり遠方に家族家庭を築いていくことが多いです。
高齢化するにしたがってこの傾向は高くなるでしょう。
回答されたサンプルでは50代、60代の方が多いので、相続で承継した物件も多かったのかもしれません。
多くの方は仕事で十分なお給料を得ているでしょうし、年金暮らしの方も贅沢をしなければ年金でなんとかやっていけます。
高齢の方は健康のことなどで将来不安が強くなる年代ですから、堅実な「預貯金」という行動が多くなったのかもしれませんね。
さてそれでは次の項からは、売却代金の利用用途を考える時に注意しておくべきことについて考えてみたいと思います。
住み替えの資金源に利用する場合
前項の調査結果で最も多かった住み替えに家の売却代金を利用する場合、現金化を確実に、できるだけ早く行う必要性が生じます。
旧住居を売って資金を確保してから新居を購入する「売り先行」は資金の確保を優先するために安全性の高い方法と言われていますが、希望する新居の購入手続きが進まないため場合によっては旧住居を売ってからしばらくはアパート暮らしを強いられることもあります。
また新居探し自体は早い者勝ちですので、有望な物件はどんどん先に買われてしまい、自分の条件に合う物件がその地域になくなってしまうこともあります。
仕事の関係上特定のエリアの物件しか購入対象にできないとか、家族構成が理由で間取り条件が厳しくなったり、学校などの公共施設などの立地条件に縛りが出ることも多いです。
もし条件に合う希望物件がなくなってしまった場合、住みにくいアパートなどでストレスをためることになるかもしれません。
そうならないためにはできるだけ早く、確実な現金化が必要で、売却にあたる業者の実力が試されます。
先に新居の購入を優先する「買い先行」では欲しい物件を手に入れやすいですが、新居購入後に旧住居がなかなか売れないという事態になったら住み替え資金の確保にとん挫してしまうことになります。
契約上「買い替え特約」を付して、もし旧住居の売却が決まらなかった場合は購入契約を白紙に戻すということもできなくはないですが、相手が拒否すれば契約に盛り込めませんし、他の項目で譲歩を迫られることも多くなります。
こうならないためにはやはり最初の業者選びが重要になります。
業者を利用する側にも選定眼が求められると言って良いでしょう。
もし可能であるならば旧住居の売却にかかる業者と、新居の購入にかかる業者を一本化すれば上記のリスクは抑えられます。
同一業者ですから「売れなければ買ってもらえない」というプレッシャーが生じるからです。
住み替えが同一エリアで単一業者でカバーできる場合は業者を一本化できれば有利です。
支店を多く持つ大手の業者はこの点利用価値が上がると言って良いでしょう。
預貯金に充てる場合
物件売却の代金を預貯金に充てる場合は一見特にリスクは無いように思えますが、あえて考えてみます。
資金を現預金のまま保有しておくのは通常税金対策、とりわけ相続対策としてはマズイ行為となります。
現預金は相続税の課税計算上なんの優位性もないので、そのままの価値で課税対象にされてしまいます。
不動産は計算上その価値をかなり減算して計算することができるため、税法上かなり優遇されます。
そのため相続対策としては現預金の不動産化が基本となっており、多くの方が実行しています。
上述の調査の結果では比較的中高年層が多いようですので、近い将来自分に相続が起きた時は税負担が重くなることが予想されます。
とはいっても最近の高齢者は元気ですから、しっかりと相続対策を考えていくことでリスクを回避できるでしょう。
住宅ローンの返済に充てる場合
3番目に多かった使途で住宅ローンの返済資金がありました。
住宅ローンというのはその目的の物件を買うためにわざわざ設定したものですから、「ローン返済の為に」売ってしまうというのはいささか不自然に思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし「住宅ローン地獄」などという言葉もあるように、ローンが払えなくなって首が回らなくなる方も結構多いのが実情です。
住宅ローンの設定には金融機関の審査が入りますから、これに通らなければ融資を実行してもらえません。
審査の際には当面の安定した収入源などを考慮して、弁済が確実に行われるかどうかがチェックされます。
審査に通れば融資を受けられますが、人の人生には紆余曲折が付き物です。
健康を損ねて仕事を失ったりすることは十分考えられます。
こうして計画通りのローンの支払いが難しくなってくると一気に状況が悪化します。
月々の返済も難しいくらいの状況になるということはかなり逼迫しているはずです。
このままいくと近い将来には返済資金が焦げ付くのが明白だという場合は、早めに手をうっていく必要があります。
そこで家を売ってしまい、まとまった資金を確保してローンを完済してしまおうという選択が生まれます。
家は築浅の方がより高く売れるので、売ることをためらっている間にどんどん家の価値は低下し、手に入れることができる資金の額も減ってしまうので、早めの行動が大切になってきます。
ただし問題は、それでも売り主が考えるほどに高くは売れないということです。
物件を売ってもローンの残額に届かず完済ができないものをオーバーローンといいますが、この場合結局ローンの完済もできないので負債は残ったままです。
その場合物件に付けられた抵当権は解除されませんから、そのような危険な物件は誰も買ってくれません。
その場合は売却自体ができないので特別な手段が必要になってきます。
手持ちの資金の他に生命保険の解約返戻金や契約者貸付、退職金の前借り、親族からの低利の借入などで完済できないかを考えることになります。
生命保険は解約してまとまった解約返戻金を手にすることができる保険商品もありますが、この場合解約してしまうので保険のメリット自体が無くなってしまいます。
もしもの時の医療費や生活費の備えがなくなるということです。
一方生命保険の契約者貸し付けというのは、保険を解約せずに解約返戻金の一定枠の範囲で貸し付けを受けられるものです。
解約返戻金がない保険商品では利用できませんし、貸し付けが受けられる場合でも利子を付けて返さなければならないので金銭面でのデメリットはあります。
いずれにしても、住宅ローンの返済に充てるという場合は、どれくらいの資金が手元に残るのかというシミュレーションが非常に重要になってきます。
仲介売却の場合は実際に買い手がついて交渉の末に最終的な売却金額が決定しますから、この額とできるだけ相違が出ないような正確な査定をしてくれる業者選びが重要になってきます。
査定額(予想額)と実際の売却金額に大きな差が出てしまうとローンの完済に必要な額に届かず、売却が失敗してしまう危険があるからです。
税金の支払いに充てる場合
住宅ローンの返済資金の次に多かった「使い道が決まっていない」と「生活費」は飛ばして、物件の売却代金を税金の納税資金に充てる場合を見てみましょう。
税金にも色々な税目がありますが、まとまった額が必要で不動産の売却代金がよく用いられるものに相続税があります。
不動産の売却それ自体にかかってくる不動産譲渡所得税という税目も有名ですが、調査の性質上、不動産の譲渡所得税を納めるために不動産を売るというのは少し考えにくいので(複数不動産があり、他の不動産の譲渡所得税の支払いに充てるなどの理由は考えられますが)、ここでは税金の代表として相続税の納税資金に充てる場合を考えてみます。
税金というのは納税期限というものがあり、これは金銭消費貸借契約でいうところの弁済期限と同じようなものと考えることができます。
つまりその期限までに確実に資金を用意しておかないと、納税や返済ができないということで追徴課税や遅延損害金などのペナルティが課せられるということです。
税金の場合は悪質な取り立てなどの危険はないものの、民間の借入のペナルティと違う意味で怖いところがあります。
民間のペナルティは自己破産などによって逃れることができますが、税金は自己破産によっても逃れることはできません。
相続することで相続税の納税が必要になった後で、自分の借入過多などの理由で自己破産をしても、相続税などの税金の債務はなお残り一生かけて追われることになります。
自己破産とまではいかずとも、相続税の納税期限は相続発生から10か月以内です。
この時までにまとまった納税資金を用意するのが難しいケースはよくあります。
日本の相続事情では現預金よりも不動産の方が多いという特徴があり、現金化に時間がかかる不動産の売却に失敗すると納税期限までに納税できず、その場合延滞税などのペナルティが課せられてしまいます。
相続によって納税が必要になり、不動産を現金化しなければならない時は早めに不動産業者に相談して売却に動く必要があります。
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